大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)1938号 判決 1952年8月05日

本籍並びに住居

京都市下京区下松屋町松原下ル上長福寺町二三一番地

(現在 大阪拘置所在所)

古物商

川島四郎

大正五年三月五日生

右の者に対する窃盗被告事件について昭和二七年二月二五日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意について。

論旨は要するに原判決の事実誤認を主張するものであつて違法な上告理由とならない。

弁護人宮田勝吉の上告趣意について。

憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、同条項は裁判所が被告人に対し国選弁護人の選任を請求し得る旨を告知すべき義務を課したものではない、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りること当裁判所の判例の趣旨とするところである。(昭和二四年(れ)第二三八号、同年一一月三〇日大法廷判決並に昭和二五年(あ)二四三一号同二六年五月一五日第三小法廷判決参照)。判例はまた、必要的弁護の事件において裁判所が公判期日の前日に弁護人を国選したことについて、これは当を得たものではないが、この一事により直ちに弁護権の行使を不法に制限したものとはいえない、と判示している。(昭和二三年(れ)一四八八号同二四年七月一三日第法廷判決)。本件につき原審訴訟記録をみれば、裁判所から被告人に弁護人を選任するかどうかの問合せをした旨の記載なく、控訴趣意書提出の最終日たる昭和二六年一二月七日を経過して公判期日の二日前たる昭和二七年二月九日に至り始めて弁護人が国選されていること所論のとおりであるが、弁護人は公判期日に出頭して被告人提出の控訴趣意書に基いて弁論し、異議なく弁論を終了したことが認められる。このような場合には所論の憲法違背があるといえないこと、前掲諸々の判例の趣旨に徴して明らかである。(なお昭和二五年(あ)一三九五号同二六年一一月二〇日第三小法廷判決参照)。論旨は理由がない。

なお記録を調べてみても本件に刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よつて刑訴四〇八条、一八一条に従い、裁判官全員一致の意見を以て主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例